取組概要東海がん専門医療人材養成プラン

事業の概要

東海がん専門医療人材養成プラン(東海がんプロ)は、次世代のがん対策の基盤を担うがん専門医療人を養成する教育プログラムを大学間連携によって開発・実施する。最も重要な特色は愛知県・静岡県・岐阜県の東海3県に医学部を置く全6大学を含む7大学の連携であり、日常診療で培われた強固な連携と人的交流を基盤に、各大学の教育リソースを強みとして有機的に共有しながら、東海地域の事情やニーズに適った人材を養成する。「東海がんプロ」を円滑に進めるために、東海がんプロ協議会を新たに構築し連携体制を確保・強化する。専用の履修記録管理システムによって地域にいながら大学病院と同じレベルの学習環境を整備することで大学・地理的条件を超えた連携を深める。「東海がんプロ」期間中に全体で25コースを立ち上げ、テーマ①②③の人材をそれぞれ435名(大学院255名)、70名(同30名)、170名(同130名)を養成する。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策
【専門人材不在の解消】
  • 東海3県(愛知県,静岡県,岐阜県)は日本全人口の10%(2021年総務省)及び工業出荷額の22%(2020年経産省)を占めるが、在籍する放射線腫瘍専門医・病理専門医・ペインクリニック専門医・がん薬物療法専門医・臨床遺伝専門医はいずれも10%以下(それぞれ9.0%, 9.3%, 7.4%, 9.5%, 9.4%)に過ぎない(令和5年4月各学会HPより)。東海地域においてこれらの人材養成が必須の課題であることは明らかである。東海3県に医学部を置く全6大学を含む7大学が参画して、その全ての大学にこれらの専門人材を養成する大学院コースとインテンシブコースを設置する。東海地域全体で専門人材不在の解消に取り組む。
【チーム医療教育の体系的プログラム】
  • がん患者のQОL向上や終末期医療には多様なニーズがあり、さまざまな職種の専門医療人がチームとして対応しなければならない。しかし、これまで多職種チーム医療のスキルを体系的に学修することは困難であった。「東海がんプロ」ではチーム医療を日々実践する専門家による講義と実習、グループワークによるチーム医療教育で構成される教育プログラムを新たに開発し、多職種チーム医療に対応できる人材を養成する大学院コースを名古屋大に設置する。
  • がんの支持療法の進歩によって多様な薬物治療が可能となった現在、多職種連携のなかで薬剤師の役割は特に重要である。名城大は参画大学のなかで薬学部をもつ唯一の大学として、学位取得後も地域に定着してチーム医療を担う薬剤師を養成する大学院コースを設置する。
【学際領域の体系的プログラム】
  • 新しい分子標的治療薬や複雑な免疫療法の登場によって、がん薬物療法の適正な実施には学際領域に関する豊富な知識と正確な理解が不可欠となっている。一方、がん関連の学際領域を複数領域に跨って学修することは自習以外には困難であった。「東海がんプロ」では、その豊富な人材と教育基盤を活用して学際領域を体系的に学修できる教育プログラムを構築し、医学部を置く6大学全てに大学院コースを設置する。
【がん専門医療人の地域への定着】
  • 放射線治療医・病理診断医・ペインクリニック専門医・がん薬物療法等のがん専門医療人材の地域への定着を図るため、名古屋大で並走する地域医療の教育事業 濃尾+Aと連携する。地域への定着には、地域医療への興味や学術的探究心、地域に定着して貢献する意欲が必須であり、それらを涵養するために濃尾+Aと有機的に連携する。
【教育環境の整備】
  • 放射線治療や核医学治療、神経ブロックによる痛みの治療、病理診断を担う人材養成を促進するために、事業年度初期にそれらの教育環境を整備する。
テーマに関する強み
【豊富な人材と充実した教育基盤】
  • 代表校の名古屋大では、年間200以上の特論、13コースの特徴あるプログラム(特定のテーマにそった連続講義で構成される学内教育プログラム)、70コース以上のベーシックトレーニング(幅広い分野の研究手法を大学院生が習得できるプログラム)を開講している。これらの教育基盤と本事業では豊富な人材養成のノウハウと既存の仕組みを有効に活用する。
  • 名古屋大はがん診療連携拠点病院及びがんゲノム医療中核拠点病院として東海地域のゲノム医療の中核として個別化医療を先導している。特に第1期がんプロで確立した臓器横断的・診療科横断的ながん診療体制を基盤として、腎臓学・循環器学・老年学・内分泌学等などの学際領域に多くの研究業績があり、診療ガイドライン作成にかかわった人材も豊富である。名古屋大で行われている地域医療の教育事業 濃尾+Aに加え、藤田医大では腫瘍循環器学分野の産学連携研究が行われており、浜松医大では地域家庭医療学講座において地域医療に貢献する総合診療専門医が養成されている。いずれの大学も総合病院として包括的な診療体制が整備されており、これらを強みとして学際領域の教育に有効に活用する。
【多職種チーム医療の教育】
  • 名古屋大の総合保健学専攻博士前期課程は平成19年度よりトータルプランナー(THP)コースを開講しており、これまでに約200名を学内認定した実績がある。少子高齢社会を包括的に支える健康増進モデルを開発・推進する人材育成プログラムである。特に少人数多職種のグループワークによるチーム医療教育を特徴としており、THPコースで長年培われた多職種チーム医療教育のノウハウを応用して、「がんTHP」コースとして大学院コースとインテンシブコースを新たに設置する。大学院コースには東海国立大学機構として法人統合した岐阜大の大学院生も含む。インテンシブコースは「東海がんプロ」参画全大学の履修生を対象とする。
【痛みの治療・ケアと放射線治療の教育基盤】
  • 名古屋市立大では国立がん研究センターと連携協定を結び精神腫瘍学分野に関する連携大学院を設置している。愛知医科大(疼痛医学講座)及び藤田医科大(緩和医療学講座)には緩和医療専門の講座が設置されている。浜松医大では高精度放射線治療及び核医学治療を担う放射線治療専門医(放射線腫瘍学講座)、ゲノム医療を担う病理専門医(腫瘍病理学講座)を育成する体制と実績がある。これらの大学のもつ強みを大学間連携によって共有・活用する。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策
【がん予防推進の体系的な教育プログラム】
  • 東海地域にはこれまでなかった体系的な学際的教育プログラムを構築して名古屋大及び浜松医大に大学院コースを設置する。データサイエンスやメディカルAIに基づいてがん予防を推進できる人材を養成する。
【がん医療のメディカルAI人材養成】
  • 名古屋大ではメディカルAIを学ぶ人材養成事業AI-MAILsが並走しており、最先端のAI技術を駆使して医療ビッグデータや大規模疫学データを利用する研究を推進できる専門人材の育成が行われている。がんゲノム医療中核拠点病院としてがんゲノム医療を推進する人材や、がん診療連携拠点病院・小児がん拠点病院として広くがん医療の専門人材の養成も行われている。「東海がんプロ」とこれらの人材養成事業が有機的に連携することで、さらに高いレベルでがん予防の推進を担うメディカルAI人材養成へと繋ぐ。
【がんの遺伝医療を担う人材養成】
  • 臨床遺伝学を担う人材の多くは、がん以外の難病・周産期・小児のサブ領域に高い関心をもつが、今後のがんゲノム医療・がんの予防・未発症者サーベイランス・先制医療の推進には腫瘍の領域にも十分に対応できる遺伝医療の人材が必要である。「東海がんプロ」ではがん(遺伝性腫瘍)の視点を重視した臨床遺伝学の教育プログラムを、診療の現場でがんの遺伝医療を担っている医師や医療者にも学修機会を提供するために、名古屋大にインテンシブコースを新たに設置する。がん医療やがん予防のニーズに応えられる臨床遺伝専門医やカウンセラーを養成するとともに、遺伝医療にかかわる多くの医療従事者の遺伝医療へのリテラシーを高める。
【がんサバイバーを支える人材養成】
  • がん治療成績の向上に伴い、がんと共生するがん経験者(サバイバー)の支援はますます重要な課題となっている。「東海がんプロ」では、テーマ①の事業と連動しながら、大学間連携と多職種チーム医療教育の豊富な実績を活かし、サバイバーを包括的に支える人材を養成する。
  • 藤田医大では臨床腫瘍学や遺伝性腫瘍の教育を強化した新しい認定遺伝カウンセラーの教育プログラムを構築し、がんサバイバーを支える人材を養成する。
テーマに関する強み
【医療ビッグデータ・大規模疫学研究の実績】
  • 名古屋大の予防医学講座と愛知県がんセンター研究所(連携大学院)は大規模コホート研究や疫学研究、医療ビッグデータを用いた多くの先進的な研究実績がある。「東海がんプロ」では、これらを基盤に体系的な学際的大学院コースを構築し、がん予防を推進する人材を養成する。令和5年3月には、遺伝要因がピロリ菌感染の胃がんリスクを高めることを解明する画期的な研究成果を発表した(DOI:10.1056/NEJMoa2211807)。
【データサイエンスとメディカルAI人材養成の基盤】
  • 名古屋大のAI-MAILs、臨床研究の支援部門(ARО)である先端医療開発部データセンター及び附属病院メディカルITセンター(MIT)が行う教育事業、藤田医大のがん医療研究センターデータ解析部門といったデータサイエンスやメディカルAI人材の養成基盤が整備されている。浜松医大の次世代創造医工情報教育センターは、地域の行政、企業、教育機関と連携して、データサイエンスやAI技術を基盤としてがん予防など社会問題の解決に挑戦する人材を育成している。
【小児・AYA世代のがんの診療体制】
  • 名古屋大は小児がん拠点病院として、院内小児がん治療センターが中心となり、AYA支援チーム・長期フォローアップ外来(2021年受診患者実数19名)・小児がん相談(同523件)・患者会活動支援・院内学級(令和4年12月25名在籍)・マクドナルドハウス整備等、小児・AYA世代のがんの医療体制が整備されている。名古屋大と岐阜大はそれぞれ愛知県と岐阜県のがん生殖医療ネットワークの事務局として妊孕性温存に関する患者・家族の支援にも積極的に取り組んでおり、これらの体制を小児がん・AYA世代がんの教育に活用する。
【臨床遺伝学の教育基盤】
  • 藤田医大は東海地方で唯一の認定遺伝カウンセラー養成課程を設置する大学院である。これまでの認定遺伝カウンセラーの輩出実績に加え、大学敷地内に遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングを行う臨床遺伝科やがん教育セミナー、がんセンターなどの教育環境が整備されている。
  • 名古屋大では臨床遺伝に関する症例検討会を毎月行い学外にも公開している。「東海がんプロ」で設置するインテンシブコースは、この症例検討会を発展拡充させて開講する。

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策
【創薬と新治療開発に向けて】
  • 基礎研究の段階から臨床導入を強く意識して創薬や新治療を開発できる人材を養成することを主眼に6大学に大学院コースを設置する。
  • 人を対象とする臨床研究の適正実施に向けて、研究公正・生命倫理・情報セキュリティ・利益相反に関する教育を必須とする。また、jRCTに登録された特定臨床研究数とがん関連の臨床試験数を評価指標とする。
  • 参画大学間のネットワークや東海がんプロセミナーを活用して、大学間で研究情報の共有と集約、若手研究者の相互交流を図るなど有機的な連携体制を構築する。
  • 創薬及び新治療の開発には、データサイエンスやメディカルAIのリテラシーが不可欠であるため、教育プログラムにデータサイエンスやシステム生物学を取り入れるなど、テーマ②の事業と連動しながら人材養成を進める。
【先端治療に精通する薬剤師の養成】
  • がんの治療成績が向上するとともに、チーム医療のなかの薬剤師の役割は標準治療の実施や抗がん薬の適正使用という点においてますます重要になっている。特に最近臨床導入されたCART療法や免疫チェックポイント阻害薬等の免疫療法は従来のがん薬物療法とは大きく考え方が異なる。診療でがん治療にかかわっている薬剤師を対象に、名城大に最先端のがん治療の知識・技術を学修できるインテンシブコースを設置する。各参画大学に所属する薬剤部の協力により、がん治療の高度・先進的な知識・技術を有する薬剤師を東海地域全体で養成する。
テーマに関する強み
【臨床研究中核病院及び橋渡し研究支援機関】
  • 名古屋大は臨床研究中核病院及び橋渡し研究支援機関として新たな治療法を開発する人材養成の環境が整備されている。臨床研究の支援部門(ARО)である先端医療開発部は多岐にわたる教育事業を行っており、「東海がんプロ」と連携してそれらの教育リソースを活用する。
【先端医学研究を推進する環境】
  • 岐阜大と名古屋大は東海国立大学機構として法人統合しており、同機構の糖鎖生命コア研究所(iGCORE)と連携してがんの病態解明と創薬研究における人材育成を行う。
  • 岐阜大では岐阜薬科大と連携した創薬研究を行っている。「東海がんプロ」に参画する医学部を置く6大学には薬学部がなく、この連携は特に薬学系研究者の養成において重要である。
  • 岐阜大では新薬治療開発を目的として、令和7年度に次世代がん医療講座を新たに設置する計画である。浜松医大の光尖端医学教育研究センター及び国際マスイメージングセンターでは先端的な医学研究が行われており、創薬研究を推進するための浜松医科大学創薬基盤システムが整備されている。藤田医大では、がん医療研究センターのデータ解析部門と連携して、臨床で得られるデータとその解析手技を俯瞰的に学び、臨床データドリブンな研究を構築できる人材養成の環境が整っている。「東海がんプロ」では、このような先端医学研究を推進する環境を教育に活用することができる。
【最新のがん免疫療法の実施】
  • 名古屋市立大は特にCAR-T療法に関して全国的に非常に高い治療実績を有しており、実習・カンファレンスを通じて先進的な教育研修の環境が整っている。名古屋大は独自のCAR-T細胞療法製造技術を有しており、国内で臨床試験を実施するとともに、タイ王国のチュラロンコン大学の臨床研究を支援している。このような最先端の免疫療法を実施する環境を強みとして、「東海がんプロ」の教育プログラムに活用する。

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
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